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東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)65号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決には、その主張する五点において、認定を誤つた違法がある旨主張するが、この主張は、いずれも理由がないものといわざるをえない。すなわち、次のとおりである。

(一) 原告は、まず、本件審決は、原告主張の部分(特許請求の範囲の傍線の部分)を本願発明の要旨と認めなかつた点において、その認定を誤つたものである旨主張するが、右の部分が対象物質を放射高周波熱で加熱し、含有された水分を該物質内で蒸気圧を生ぜしめ、直ちに該蒸気圧力の温度より低い温度の含浸溶液に接触せしめた場合の対象物内部に起こる現象を説明したものに他ならず、結局本願発明による作用ないし効果を示すものにすぎないことは、その特許請求の範囲の項の記載から明らかなところであるから、本件審決が、右部分を本願発明の構成上欠くことのできない要件には該当しないという意味において、これを除外して本願発明の要旨を認定したことは、正当であり、非難すべき点はない。右と見解を異にする原告のこの点に関する主張は、到底採用することはできない。

(二) 原告は、また、本件審決が、「本願発明と引用例とは、木材などの繊維質物質に薬液を含浸させる方法である点で全く軌を一にする」としたことを誤りである旨主張する。発明が一定の目的を達成するための具体的技術手段であることは原告の主張するとおりであるが、本願発明及び引用例に示されたそれぞれの技術思想が共に木材などの繊維質物質に薬液を含浸させることを目的とするものであることは、当事者間に争いのない本願発明の要旨(前記作用効果にかかわる部分を除く。)及び引用例の特許公報により認められる引用例の技術内容に徴し、何人の眼にも明らかなところであるから、本件審決の前示認定は、その趣旨において正当なものということができる。なお、本件審決が本願発明と引用例とを発明全体として「軌を一にする」と認定したものでないことは、当事者間に争いのない本件審決理由の要点に徴し、きわめて明らかなところである。

(三) 原告は、さらに、本件審決が、本願発明と引用例とは、木材を高周波装置により加熱処理した後、これを常温又は常温以下の低温の薬液中に浸漬して含浸せしめる点に両者均等の手段である。と認定したのは誤りである旨主張する。しかして、本件審決のこの点に関する説示は、簡略にすぎるぎる嫌いなしとはしないが、その趣旨とするところに、原告の指摘するような誤りがあると認めることはできない。原告は、本願発明と引用例とは、その具体的手段において、まず出発材料の含水量の有無の点において相違すると主張するが、引用例の出発材料である木竹にも若干の水分を含有することは、これらの自然的な性質から当然看取できることであるばかりでなく、引用例第一、二表に示された対象物の重量が、乾燥前と乾燥後において、四七〇グラムにつき五〇〜七〇グラム、50.4グラムにつき8.5グラムの差のあることからも容易に推認しうるところであり(なお、原告は、右各表の重量は資料に供した対象物の大きさに徴し、信用し難い旨主張し、その重量は示された対象物の大きさに比べると軽重量であり、その単位を誤つたものと推測できるが、比較資料としては信用しえないものということはできない。)、これを覆すに足る証拠はないから、出発材料の含水量につき特別の限定のない本願発明と引用例とが、この点において、差異があるということはできない。また、両者における加熱温度にしても、いずれも特段の限定をもたないことは、明らかなところであるから、この点において両者に差異があるものということはできない。もつとも、本願発明においては、加熱により物質内に蒸気圧を生じさせるに対し、引用例においては、「加熱乾燥」といい、物質内における蒸気圧については触れるところはないが、引用例のように、水分を含有する物質が「加熱乾燥されて高温下にある」場合、程度の差はあるにしても、その物質内部に蒸気圧が発生している状態にあるであろうことは容易に推測しうるところであるから、加熱の程度につき何らの限定もない本件において、実施例にみる具体的温度数値や「乾燥」という表現から、この点において引用例と技術思想としての差別を認めようとすることは、理由のないことといわざるをえない。

(四) 原告は、また、本件審決が、木材を高周波誘電加熱により加熱する方式をとる以上、その内部発熱による蒸気の発生は、本願発明も引用例も均等である、としたことを非難するが、その理由のないことは、すでに説示したところから、おのずから明らかであろう。

(五) 原告は、さらに、本件審決が引用例の「乾燥」が本願発明の内部破裂と同等であるとしたことは、「あと知恵」であり、甚だ不当である旨主張する。しかし、本願発明にいう内部破裂の問題は、いわばその薬液含浸の過程の説明として、その方法のもたらすと考えられる働き方、すなわち、機能ないし効果の表現として使用されているにすぎないと認めるを相当とすること、前説示のとおりであり、引用例の方法も薬液含浸の方法として本願発明と格別異なるところがない以上は、薬液含浸の過程としては本願発明と同一の過程を経るものとみるを相当とする(この点、引用例における薬液含浸は毛細管現象の理によるものと想像されると記載されてのみで、その原理自体は必ずしも明白といえないから、この記載は上記認定を覆す資料といい難い。)から、原告の前示主張は、到底採用することはできない。

(むすび)

三 以上詳述したとおりであるから、その主張の点に認定を誤つた違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

<編注>一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三十五年三月二十九日、「物質の内部破裂に依る含浸剤溶液含浸方法」につき、特許出願をしたところ、昭和三十六年七月七日、拒絶査定があつたので、同年九月二十九日、これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第二、八一一号事件として審理されたが、昭和四十二年一月十七日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年二月一日原告に送達(出訴期間は同年六月三日まで延長)された。

二 本願発明の要旨

水分を含有する細胞構造の物質を放射高周波熱で加熱し、含有された水分をして該物質内で蒸気圧力を生ぜしめ、直ちに該蒸気圧力の温度より低い温度の含浸溶液を該物質の表面と接触させ、それに依り該蒸気圧力を減少させ該物質内に直ちに真空を生ぜしめ、該含浸溶液を該物質内に導入し、該蒸気圧力が以前に占めていた部分に該含浸溶液を飽和させることにより、該物質の内部破裂効果に依り、それに含浸溶液を即時含浸させることを特徴とする物質の内部破裂による含浸剤溶液含浸方法。

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